クリニック承継はじめて物語 後編

翌日の四者面談はクリニック現地で行われた
売り手の理事長は現在のクリニックの状況、問題点を詳しく説明してくれた 簡潔かつ率直であり好感をもった
錦鯉ワタナベ似は、面談を仕切ってくれた
また、譲渡時の各種手続きの補助、同行を約束してくれた
味方となるべき買い手コンサルタントの「ジャルジャル後藤似」は『今日はありがとうございました』と最後に一言発しただけであった

事前に 『四者面談では金額交渉をしないで欲しい』という、ジャルジャル後藤似の要請があったので、この面談後にメール等で交渉していくことになっていた

医療法人譲渡ではないから職員採用継続の是非につき交渉できるはずだ

まず受付の事務員が常勤で4人もいる
新型コロナ蔓延の時期にクリニックにら電話問い合わせが殺到したので、人数を増やしたとのこと
しかし、コロナが過ぎ去った今、通行人をにらみたおす受付一名はいらない 

事務長役の給料高めの柔道整復師もいらない
売り上げ1億に満たないクリニックには事務長を雇う余裕はない

『バカな営業は半分無視して交渉しないとダメ。話がすすまないどころか売り手とトラブルになるよ』という弟のアドバイスに従い、「人件費削減しないと黒字が維持できない 人員整理に協力してほしい」旨のメールは売り手のコンサルタント、錦鯉ワタナベ似にだけ送ることにした

しかし、返信は錦鯉ワタナベ似ではなくジャルジャル後藤似から
『人件費を下げることはできないですが、譲渡金額は減額可能かもしれません』とだけ返信が来た

売り手コンサルタントは建前上、買い手コンサルタントがどんなにアホでも、それを通して買い手と連絡しなければいけないみたいだ

この案件は、売りに出してから半年、売り手M&A会社は、自前で買い手候補を1人も見つけられなかった
売り手も買い手も少ないのだろう
ジャルジャル後藤似の所属する大会社のホームページをまき先生がクリックしたから面談までいたったのだ

人件費削減につき交渉できないのであれば買う選択肢はない…
これまでのジャルジャル後藤似のやる気ゼロの態度は、
「面倒な交渉や手続きは一切関わりませんが、買い手と売り手の橋渡しだけしました 
成約した暁には500万円よろしく 
ただ体裁を保つために交渉の場には出席だけして黙って座っています」
という気持ちのあらわれである

買い手コンサルタントを自称しながら何も提案しない 面談ではダンマリを決め込む メールを右から左へ受け流す

クリニックM&A業界の、濡れ手で粟のビジネスモデルに震撼した

彼は「バカの壁」ではなく、「客をバカにしてくる壁」であったのだ

こちらが人件費削減を要求しているにも関らず、突然判明した職員の正確な給与額すら通達してこない

基本合意をするか決めるまでの猶予は1週間と指定されている

交渉成立は無理だなと早くも悟った
これ以後の交渉を丁重にお断りした

1週間後

そのクリニックの売り募集はなぜか希望譲渡額が1.5倍に値上げされて、別の大手M&A会社のホームページに載っていた
1ヶ月前までは、クリニックホームページの顔出しは雇われ院長のみであったが、職員全員が笑顔でうつっていた
買い手対策としてのホームページ更新だと理解した

しかしその3週間後

そのクリニックは閉業した

まき先生が売り手理事長と面談したわずか1ヶ月後であった

全員の雇用継続を希望していたのに、閉業により結局は全員解雇したということになる

どの時点で閉業を職員に伝えたのだろうか?
帳簿上はある程度利益が出ていたのになぜ急に閉める必要があったのであろうか?

名刺にある理事長の事務所の電話番号に躊躇なく電話した 閉業直後のクリニックをタダ同然で買い取りたかった 

しかし、理事長が経営する施設事務所の電話番号は既に使われていなかった 
メールを送るが返信はなかった

今回の急転直下の閉業には深い闇があるような気がして、これ以上深追いしてもクリニック承継初心者なんて騙されるだけだと思い、売り手M&A会社に連絡するのをやめた

ある日〇〇クリニックの前を通ってみると、中は真っ暗だったが、医療器具や椅子は全て撤去されていた
2軒隣りの門前薬局の高齢男性薬剤師が何かぶつぶつ呟きながら、閉店の準備なのかダンボールを運びだしていた

(完)

(この話はフィクションです 実在するいかなる団体、人物とは一切関係がありません)

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